神経を抜いたのになぜ歯が痛くなる?| #1
むし歯が深くなり、歯科医院で「神経を抜きましょう」と言われた経験はありませんか?
「これで痛みから解放される!」と安心したのも束の間、治療が終わったはずなのに、なぜか痛みが続く…。「もう神経がないはずなのに、どうして?」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
実は、神経を抜いた歯が痛む原因は、単なる気のせいではありません。そこには、あなたの歯が発している「SOS」のサインが隠されているのです。
この記事では、神経を抜いた歯に痛みや違和感を感じる方が直面する「3つのシチュエーション」から、その根本的な原因、そして「一時的な痛み」と「持続的な痛み」をどう見分けるかまで、専門的な内容をわかりやすく解説します。
歯の痛みや違和感で悩んでいるあなたへ。この記事を読んで、ご自身の歯が今、どんな状態にあるのかを知る第一歩を踏み出してみませんか?
3つの痛みシチュエーション:あなたはどのタイプ?
神経を抜いた後に痛みや違和感を覚える場合、多くの人が以下のいずれかの状況に当てはまります。あなたの症状と照らし合わせることで、痛みの原因を探る手がかりが見つかるかもしれません。
1. 噛むと痛い、歯が浮いた感じがする
「食事をすると、特定の歯だけが痛む…」「歯が浮いたような、グラグラするような違和感がある…」
このような症状は、歯を支えている周りの組織、具体的には歯根膜や周囲の骨に炎症が起きている可能性があります。
神経がなくても、歯の根っこの周りには痛みを感じる組織が残っています。そのため、歯を噛み合わせた時に力が加わると、炎症を起こした組織が刺激されて痛みを感じるのです。鋭い痛みが走る場合は、歯にひび割れが生じている可能性も考えられます。
2. 歯茎が腫れて、膿が出る
「歯の根元や歯茎が腫れて、押すと痛い」「しょっぱいような変な味がする…」
これは、歯の根っこの先に溜まった細菌感染が原因で、膿が溜まっているサインです。
私たちの体は、細菌と戦うために免疫反応を起こします。歯の根っこに細菌が繁殖すると、体が防御反応として炎症を起こし、戦った結果として膿が形成されます。膿が溜まると内部の圧力が高まり、ズキズキとした強い痛みを引き起こすことがあります。この症状は、早急な治療が必要です。
3. 普段は痛くないが、違和感が続く
「激しい痛みはないけど、時々鈍い違和感が続く」「歯を押すと、なんとなく痛むような気がする」
強い痛みを伴わないため、つい放置してしまいがちなのがこのタイプ。しかし、これは根っこの先に慢性的な炎症が起きているサインかもしれません。
強い痛みがないからといって安心はできません。この状態を放置すると、じわじわと根っこの周りの骨が溶かされていき、最終的には歯を抜かなければならなくなる可能性もあります。違和感は、あなたの歯が発する小さなSOS。無視せずに、専門医に相談することが大切です。
痛みの根本原因を徹底解説:歯周組織のSOS
「神経を抜いた歯がなぜ痛むのか?」その謎を解き明かすために、ここからは痛みの根本的な主な原因のひとつを、詳しく見ていきましょう。
原因① 根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)
神経を抜いた歯の痛みの最も一般的な原因が、この「根尖性歯周炎」です。
根管治療(神経を抜く治療)は、歯の内部に広がる神経や細菌をきれいに取り除く治療です。しかし、人間の歯の根管は、まるで木の根のように複雑に枝分かれしています。肉眼では見えないほど細かく入り組んだ部分まで、すべての細菌を完全に除去することは、実は非常に難しいのです。
日本の一般的な根管治療の成功率は、残念ながら30〜50%程度にとどまると言われています。
治療が不完全だったり、被せ物と歯の間にわずかな隙間ができ、そこから細菌が再侵入したりすると、根っこの先に細菌の住処ができてしまいます。すると、体が細菌と戦い、その結果として根の先に膿が溜まり、炎症を引き起こすのです。
この膿や炎症が、前述した「歯茎が腫れる」「噛むと痛い」「ズキズキする」といった症状を引き起こす根本原因です。
「一時的な痛み」と「危険な痛み」の見分け方
ここまでで、神経を抜いた歯が痛む原因には様々なものがあることがお分かりいただけたかと思います。では、どうやって「様子を見てもいい痛み」と「すぐに歯科医院に行くべき痛み」を見分ければ良いのでしょうか?
一時的な痛み(様子を見ても良いケース)
- 症状: 治療後2〜3日で治まる鈍い痛みや、歯が押されるような違和感。
- 理由: 治療時に根の先の組織が刺激を受けたり、根管内に薬を詰める際の圧力がかかったりするためです。
- 対処法: 痛み止めを服用することで痛みが緩和されることがほとんどです。気になる場合はクリニックに相談しましょう。
注意すべき痛み(放置してはいけない危険なサイン)
以下のいずれかに当てはまる場合は、すぐに歯科医院を受診してください。
症状:
治療後1週間以上経っても痛みが治まらない。徐々に痛みが強くなる、痛み止めが効かないほどの激痛。歯茎の腫れや膿が出る。歯が浮いた感じが続く。痛みに加えて発熱を伴う全身の不調がある。
- 理由: これらの症状は、根管内で細菌感染が進行している、神経が根管内に残っている、歯根が割れているといった、根本的な問題が隠れている可能性を強く示唆しています。
- 重要性: 危険な痛みを自己判断で放置すると、症状が悪化し、最終的に抜歯という選択を迫られる事態に陥る可能性があります。
痛みは、あなたの歯が発する最後のSOSかもしれません。
「もう神経がないから、痛むはずがない」と自己判断せず、少しでも不安を感じたら、できるだけ早く専門家である歯科医師に相談することが、大切な歯を守るための最善の選択です。
まとめ:大切な歯を守るために、まずはお気軽にご相談ください
神経を抜いた歯の痛みは、必ず何らかの理由があります。痛みや違和感を放置すると、根の先に溜まった膿が周囲の骨を溶かしたり、歯根の亀裂が拡大して、最終的に抜歯を余儀なくされる可能性が高まります。
「神経がない歯は痛みを感じない」というのは間違いです。歯の周りの組織は、あなたの歯の異変を伝えるセンサーとして機能しています。
大切な歯を守るために、まずは一度、専門家である歯科医師に相談することが、最善の選択です。当院では、患者様一人ひとりの症状に真摯に向き合い、最新の設備と専門的な知識に基づいた精密な治療をご提供しています。
痛みや違和感でお悩みの方は、一人で悩まずに、まずは当院までお気軽にご相談ください。あなたの健康な歯を守るために、私たちが全力でサポートいたします。
監修者
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帆足 卓眞(ほあし たくま)|歯科医師
- 出身大学 福岡歯科大学
- 職歴
- 2020年 久留米大学病院 歯科口腔外科
- 2022年 直方市内の歯科医院
- 2024年 医療法人シルキーライフ つつみ歯科医院 勤務
- 所属学会 一般社団法人 日本老年歯科医学会 会員